このカワイイものは、一体なんだろうね?
先日、学生時代からの友人と2人、デニーズでお茶した時のこと。
彼女が頼んだのは、『シャインマスカットゼリーのババロア』
私たち2人の目線は、ババロアよりも、周りに置かれた丸くてカラフルな物体に向いていました。
「このカワイイの、なんだろうね?」
お互いがお皿をじっと見つめ、色とりどりのお菓子らしきものを見つめます。
1つ食べてみると、中は空洞でサクッっと軽く、ふわっと口の中でとけていきます。
お味はほんのり、実にほんの~り甘い…、なんだか優しい気持ちになるお菓子でした。
「飾り…、かな?」
この時は『飾りものの何か』という認識のもと、美味しく食べて終わりましたが、よくよく調べてみると、これが特別なお菓子であることが判明しました。
お菓子の名前は『おいり』
香川県の西部地域に伝わる伝統の嫁入り菓子だったのです。
嫁入り菓子としては需要が減ってきた…?
お嫁入の際に、ご近所へ配るお菓子や引き出物は、各地方によって異なりますよね。
紅白まんじゅうや、おせんべい、お菓子ではないですが富山の鯛のかまぼこが、パっと思いつきます。
海外では、フランスの祝い菓子ドラジェ(dragée)が有名ですね。
アーモンドをお砂糖でコーティングしたお菓子ですが、淡いパステルカラーと、コロッとした形状が『おいり』と似ているなぁ、なんて思っちゃいました。
とはいえ、少子化で若者人口が減り、結婚式を挙げるカップルも、ご近所へ何かを配る慣習も減っている現代の日本。
心奪われるほどカワイイ『おいり』も、ご当地の香川県ですら、結婚式の引き出物に使われなくなってきたそうなんです…。
そのため、この風習を廃れさせないよう、数年前からご当地デザートにも使われ始めたみたい、と香川から徳島へ嫁いだ友人がコメントをくれました。
430年の歴史と『おいり』に込められた想い
おいりの歴史は長く、430年以上前にさかのぼります。徳川家康が江戸城に入ったころですね。
1587年頃、丸亀城主・生駒親正(いこま ちかまさ)公のもとへお姫様がお輿入れの際、領民が5色のあられをお祝いに献上したのが『おいり』の始まりなのだそうです。
お豆のように丸いおいりには「心を丸く、まめまめしく働く」意味合いがあり、嫁入りの「入る」と、火で「煎る」 ことから、『おいり』という名前が付けられたようです。
ほんの少し力を入れただけで崩れてしまう、この繊細なお菓子は、もち米を加工し、手作業で振るいながら煎って丸い形に仕上げ、淡く色づけて仕上げるそうです。
「着物をこしらえる数を減らしてでも、おいりは持っていかせた」ほどだと、四国新聞で紹介されている記事も、納得できます。
こんなにも素敵な『おいり』を持ってご挨拶されたら、私の場合、一瞬で印象が爆上がりです。
嫁ぎ先のご家族や、ご近所さん方にも可愛がってもらえるようにとの、切実な親心が、この『おいり』に込められているようです。
参考:四国新聞 21世紀へ残したい香川
【香川・丸亀】御菓子司 寳月堂(ほうげつどう)
ご紹介した「おいり」を取り扱う2店をご紹介します。
まずは、丸亀市で大正6年に創業された、和菓子の老舗・寳月堂(ほうげつどう)さんです。
寳月堂さん、存じ上げております。
日本橋高島屋で買った「寳月堂 まるがめ」(大納言あずきとバターの入った饅頭)を食べた時、
「あ、これはどこに出しても間違いないな」
と唸りました。貫禄ある和菓子を作り上げる、老舗中の老舗です。
HPを見ると、お店そのものがものすごいですね。
明治31年の建築物だそうで、漆喰の白がまぶしく、登録有形文化財だとか。丸亀へ行くなら、何としても足を運びたいものです。
昔ながらの建物を守り、こだわりの和菓子を作り続ける寳月堂さん。
『おいり』も、可愛らしいパッケージで販売されています。
【東京・新橋】香川・愛媛せとうち旬彩館
次に紹介するのは、東京にございますアンテナショップ「香川・愛媛せとうち旬彩館」です。
JR新橋駅の目の前にあります。
個人的に、新橋駅はよく行きます。
なぜなら、新橋駅の西口広場には、てっちゃん息子が愛して止まない、蒸気機関車C11 292号機が静態保存してあるからです。
SLを見て、旬彩館へ寄って美味しそうな特産品を買い、愛媛の晩柑ジュースを飲んで帰るのが、息子とのお決まりコースです。
スミマセン、『おいり』とは1ミリも関係なかったですね…。
現在、1階の特産品ショップにて『おいり』を販売中とのこと。
新橋駅をご利用の際には、ぜひそのかわいらしさに癒されてください。
伝統を守ることと、一時的なブームのひずみ
『おいり』は、その製作の工程が複雑で、作り上げるのに1週間以上もかかる、大変に手間のかかる、しかし「婚礼」という最もハレの日に重宝されるお菓子です。
昨今、『おいり』は、婚礼用としてだけでなく、お土産や、デザートにも使用されるようになり、テレビやネットなどで紹介される頻度が急激に増えました。
そして生まれた爆発的な注文に、製造元のお菓子メーカーさんは、嬉しくも苦しい悲鳴をあげていらっしゃいます。
「本来の婚礼に使う『おいり』が、間に合わなくなる…」と、おっしゃるほどに。
実際にそんなお声を聴いて、身のつまされる思いがしました。
本来であれば、もっと、もっと詳細にご紹介したいところなんです。
各メーカーの、趣向を凝らしたパッケージの美しさ、100年以上続いてきた老舗和菓子職人さんが『おいり』に込める想い、すべてご紹介したい!!
しかし、そんな私の勝手な思いも、一時的なブームが生み出す破壊力も、逆に伝統を壊しかねないことを教わりました。
『おいり』は、香川県民の大切な婚礼菓子であり、大量生産できるものではありません。
地元香川県の方々が、慣れ親しんだ地元の『おいり』を、安心して婚礼菓子として使用し続けられること。
そして、一時的なブームで終わらせず、長い目で『おいり』が多くの方に愛され、次の世代にも引き継がれること。
その両立を、私は心から願っています。
お店に行って、お土産やデザート用の『おいり』が品切れしていたら、喜ばしいことだと拍手しましょう!
香川でお嫁入りされる方が今、幸せのおすそ分けをしていらっしゃるということですからね(o^―^o)
今回、和菓子メーカーさん、友人たち、旬彩館さんなど、多くの方々にご協力いただきました。
心から感謝しています。誠にありがとうございました!
ではまた。
懐かしい味に出会えましたら、ご報告します。
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